聴覚障がいを持つ人たちの平均給与はかなり少ない
聴覚障がいを持つ人の平均給与は、一般の人と比べてかなり低い現状があります。
これは、2013年の調査ですが、聴覚障がいを持つ方と一般の方のフルタイムでの平均給与を比較してみると、
何と、月額で10万円もの差があります。
年間にすると120万円の差で、これはかなり大きな差であると言えます。
2020年の調査では、
月収20万円未満の方が92.5%
月収30万円未満の方が97.5%となっています。
これは”現職”のアンケート結果ですが、”前職”では、
月収20万円未満の方が、60.3%
月収30万円未満の方が、87.7%となっています。
いずれも、母数が、40人、73人と少ないので、一般論としては言いづらいですが、いろんなデータを見ると近い数字が多くあり、月収20万円未満の方は80%前後はいるのではと推測されます。
両耳90dB以上であれば、20歳から障害基礎年金が受給できます。
それでも、月に8万円か6万5千円です。
足しても一般平均に足りませんし、両耳90dBなければ受給できません。
月収20万円未満では、ただ生活するだけで精一杯です。
非常に厳しい状況が拡がっているわけです。
なぜ給与が低いのか?
まず、難聴に対する理解が進んでいないこともあり、聞こえないのであればできる仕事は限られるだろうと捉えられることが多く、求人する仕事内容の多くは補助的な業務が大半を占めている状況です。
補助的な業務なので、当然給与も低くなります。
また、コミュニケーションがうまくとれなくなるケースも多く、そうなると早期離職につながります。
実際に、一般の人の3年以内の離職率と、聴覚障がいを持つ人の1年以内の離職率がほぼ同じで、1年以内に多くが早期離職しています。
数年で辞めて転職をすると、転職先では、新卒の初任給の水準からまた始まることになります。
そして、ここでもうまくいかず辞めて・・・と、転職を繰り返すと、卒業後5,6年経っていたとしても、初任給レベルのままとなりますし、スキルもついていなければ、給与水準は低いままになります。
なかなかステップアップできないと役職も上がりません(昇格しない)。
昇格しないと給料も上がりません。
加えて、聞こえないため、コミュニケーションが取れないと判断されることも多く、管理職はできないと判断されることもあります。
管理職になれなければ、給与も一定のところで止まってしまいます。
(残業代が出なくなった分、管理職になった方が給与が下がる場合もありますが)
そして、日本では、障がい者枠求人は、一般枠に比べて、多くの場合、給料も低く設定されています。
時代は変わっているのに求人内容は昔のまま
昔は、補聴器などの性能もそれほど良くなく、言葉でのコミュニケーションは、今よりも取りづらい状況でした。
また、昔は今ほど特別なニーズを持つ人の雇用が進んでいたわけではないので、簡単にできる補助業務なら採用も可能という位置づけが多かったんだと考えられます。
しかし、時代は流れました。
早期療育が拡がったことにより、聴覚を活用できる子どもたちが増えてきました。
聞き取る力が発達してきたのです。
補聴器は、アナログからデジタルに変わり、よりクリアな音を認識できるようになり、現在では、人工知能を使って脳が認識しやすい音に変換して伝える補聴器も発売されています。
また、人工内耳も多く取り入れられるようになりました。
人工内耳が成功すれば、随分言葉が聞き取りやすくなります。
ITツールも発達してきました。
マイクの音を直接補聴器や人工内耳に届ける送信機能付きマイクも主流になってきました。
音声文字変換アプリの精度も上がり、文字で言葉を確認しやすくなりましたし、電子メモパッドで手軽に筆談できるようにもなりました。
手話に関しては、手話通訳士の配置が必要となりますが、こちらはまだまだ普及が足りず課題ではありますが、手話言語条例なども自治体によっては制定されてきて、手話への理解も拡がってきました。
これらのツールを使えば、話し手と聞き手お互いの協力は必要ですが、昔に比べれば格段に意思疎通がしっかりできる状況になっているのです。
つまり、補助業務だけではなく、企画や営業、販売の仕事だってできるのです。
それにもかかわらず、求人内容だけは、昔と変わらず補助業務が大半を占めている状況で、これは健全な状態とは言えません。
補助的な業務が悪いわけではなく、このような仕事が好きな人もいると思いますし、自分にピッタリ合っている人もいると思います。
問題なのは、もっと自分の能力を発揮できる仕事があるにもかかわらず、選択できない状況が作られてしまっていることです。
聴覚障がいを持つ本人も、自然と狭い選択肢へ向かってしまう流れができている
聴覚障がいを持つ本人自身が、障がい者枠で働くことを望むケースも多いです。
理由の多くは、「障がい者枠の方が理解があるから」ということです。
しかし、これは事実ではありません。
実際は、理解があるかどうかは、一般枠か障がい者枠かにかかわらず、「会社次第」です。
一般枠でも理解がある会社もあれば、理解のない会社もありますし、
障がい者枠でも理解のある会社もあれば、理解のない会社もあります。
一般枠で失敗した経験があれば、一般枠は嫌だと思ってしまうでしょうが、
それは、枠の問題ではなく、会社の理解があるかどうかの問題です。
「障がい者枠=理解がある」というわけではないのです。
以前、オンラインイベントに出ていた難聴の大学生は、その言動から非常に優秀さを感じました。
その大学生が、
「小学校の頃から、あと少しの情報がなく悔しかった。
あと少しの情報があればもっとできたのにと思うことがたくさんある。
だから、就職は理解のある障がい者枠でやりたいと思っている」
と言っていました。
これほど優秀に思える学生さんでさえ、そうやって選択肢を知らず知らずのうちに狭めてしまっている、狭い選択肢へ向かう流れができてしまっている現状が、非常にやるせなく思います。
障がい者枠が悪いわけでは決してありません。
ただ、一般枠か、障がい者枠かを先に考えるのではなく、
本当に自分がやりたいことを考えて、
その仕事をするには、一般枠か障がい者枠のどちらがいいのか?
と、考えていく方が自然です。
そうすれば、仕事を広い選択肢の中で考えられるようになります。
10種類から選ぶ仕事と、1,000種類から選ぶ仕事では、当然1,000種類の中から選んだ方が、本当に自分がやりがいを持ってできる仕事を選べる可能性は高くなるのは火を見るより明らかでしょう。
自分の可能性に気づき、働きがいと一般水準の給与を得ること
長年の慣習から抜け出せないがために、若者の大きな可能性が山積みにされ野ざらしになっています。
そして、多くの経済的に困難な状況を作っています。
これは非常にもったいない話だと思うのです。
これを打破するためには、企業への理解促進も必要ですが、生徒への働きかけが最も重要になります。
生徒自身がまず自分の可能性に気づくことが最も重要です。
しかし、周りには可能性を潰す慣習のトラップが至る所で襲い掛かってくるでしょう。
高校では、生徒の希望よりも学校に毎年来る求人を優先させて受けさせようとすることが実際にあったりもします。
それでも可能性を信じて進んでいくためには、自分の可能性に気づく定期的な学習が必要です。
学習の最大効果は、インパクトと繰り返しです。
インパクトは難しくても、繰り返しなら確実にできます。
仕事に関する年間を通しての基礎学習、定期的に考えたり知恵を養うための学習。
これらを通して、自分の可能性に気づき、可能性にチャレンジする生徒が増えてきます。
企業へも、聞こえない人の能力を理解してもらい、自社で大いに活かせる場があると気づいてもらう必要がありますが、輝いているその人を見れば、自然と見方や考え方も変わるでしょう。
仕事に対する考え方、将来の考え方を学んで、選択肢が拡がれば、将来の夢をワクワクして考えられる人が増えます。
企業側が、難聴者・ろう者の能力を理解してくれ、自社の中で活かす場に気づいてくれたら、より大きな成果を生み、事業発展につながります。
そして、付随的ですが、多くの方が障害基礎年金が停止するほどの給与水準を得ることも可能になるはずで、そうなれば、その分の費用を他の必要な部分に多くかけることができるようになります。
(障害基礎年金は収入が一定額になると停止されます)
聞こえない人にとっても、働きがいと一般水準の給与を得られて良し、
企業にとっても、事業が発展して良し、
社会にとっても必要なところに予算が回ってきて良しの、三方良しを実現することができます。
では、具体的にはどうするのか?
3つの活動をご紹介します。
将来の仕事のこと、大学のこと、お金のこと、生活のことなど、ちょっとだけ未来を想像して、既に働いている大人の話を聞いたり、自分たちが思うことを話したり、聞きたいことを聞いたりするサークルです。
未来に興味を膨らませながら、人生を面白く生きる力を養います。
難聴・ろうの中学生、高校生向けに、始めは月に2回から継続して行っていきます。
仕事の本質、能力と仕事の関係、やりがいを持てる仕事の選び方など、仕事に対する考え方の基礎を身に付けます。
また、仕事において、聞こえづらさをカバーする方法や、就職時の聞こえの説明の仕方など、実践的なことも学びます。
難聴・ろうの高校生向けに、1年間6回の基礎プログラムを実施。就職活動支援コースなども行っていきます。
仕事や就職に関する個別相談をオンラインで行います。
メールや、チャット、ビデオ会話で相談を受けます。
ビデオ会話は、当面は口話ができる方向けに字幕をつけて行います。
手話でのビデオ会話は、事業の運営状況により、導入を考えていきます。